カリスマ女社長とか巷で噂されている女がいる。
まあ、それが私のことなのだそうだけれど、本人いたって自覚がない。
それは私が単に、周囲に優秀な人材がそろいやすい人間ってだけだと思う。
それはそれでまあ、確かに人徳ってものだろうし、それも一種の才能であるとも言えるのだけれど。
カリスマと褒め称えられてしかるべし、とまでは思わないものだとは言えるハズ。


素晴らしい人材が集まる素晴らしい会社、それが私を筆頭とした巨大な会社。
世間からの評価だ。
その評価はなにも誇張されたものというわけではなく、事実そうであるからまた、始末に負えないとも言える。
だって、カリスマなんて嘘よ嘘なんて、私が言ったところで誰も信じてくれないようになってしまったのも、世間からの評価が実に正しいからだ。
だからこそ私の会社は私が興して、たった数年で莫大な富を生み出す巨大な会社となった。
何かが間違ってこんなところにたどり着いた、なんて最近では思っている。

正直に言おう、私はそれこそ自分の好きなものを好きなだけ作っているって、ただそれだけなのだ。
けれど世間様にそれが受け入れられて、結果として気がつけばカリスマだとか呼ばれ出したというわけ。
たたき上げ女社長だとか、シンデレラストーリーか!?だとか、一躍セレブの仲間入り?!どんなマジックを使ったのか、なんて訳の分からない言われかたをしていた。
まあ最後のあたりのは、新聞だか女性雑誌だかのトップを飾った誇張された誇大広告っぽいものだと記憶している。

「てゆーかね、シンデレラとか、ないない・・・」

シンデレラがどういう意味合いで言われているのか分からないけれど、「シンデレラ」とか言っても、結局私が独り身アラサー女子なのは、変わらない事実だろう。
それこそ何いってんだかねー、だわ。
そういう意味で言っているんじゃないことくらいは分かるのだけれど、シンデレラなんて言われてしまうと独り身である私を皮肉っているのか?なんて邪推したくもなってくるというもの。
はっきり言ってしまえば、あんな物語の中の王子様なんてこの世にはどこにもいないのよ?なんて、夢もへったくれもないことを叫びたい。
いっくら私が平民あがりのくせ、絵に描いたようなすさまじい出世を果たそうがなんだろうが、所詮独り身。
王子様がいなくちゃ話にもならないってもんさ。
脇を飾る男の子なんて生まれてこの方、いたことなんて一度もなかったんだからな!
……言ってて虚しくなってきた。


二十代も今年で終わり、今年の十二月二十五日で私は三十路といわれる年齢になる。
世界で一番有名な人と同じ誕生日であったって、結局それを大切な人と祝うなんてこと、一度もなかった。
聖母マリアと同じく処女だよチクショー。
寂しい二十代を送ってきたとも言えるその称号に、何か文句でもあるわけ?と逆ギレ気味に言いたくなることもある。
といっても誰にとか、別にないんだけれども。
ひがみっぽくなってきたのは、確実に歳のせいだとは思うのだけれど、まあそこは仕方ないよね。

なるべく温厚に、温厚にをモットーに、やっていきたいと思っているわけです。
まあそれに関しては日々難しさを感じるところはあるけれども。
とりあえず……彼氏欲しいです……





とはいえ、好き勝手してきてのこの年齢なので、振り返ってみても悪い人生ではなかったと思う。
だって好きな物作りをしてきて、それでこの歳だ。
周囲にはそれを後押ししてくれる人たちが揃った。
私を助けてくれる人たちが増えて、これ以上を望むことなんか、それこそ罰当たりってくらいのもんである。
だから私は三十路を迎えるにあたり、別に悪い人生じゃなかったといいたいのだ。
まあ、恋をしたことがないというのは、どうかとも言えるのだけれど。

会議用の資料に目を通していれば、第一秘書の美人ちゃんが社長室にやってくるなり「やばいですよ、噂のイケボの彼!」と声をあらげる。
ちなみに他の秘書はみんな男の子だ。
それも秘書はみな等しく私に厳しい。
彼女もその仲間に含められるのは言わずもがなだ。

イケボってなにと首を傾げれば、イケメンボイスの略です、それくらい知っていてくださいとなじられる。
バリトンボイス?声がすごいイケメンなのってどういうこった??

はっきり言って第一秘書の彼女に、私は確実に見下されていると思うの。
雇い主だからって、へいこらと妙にへりくだられるよりは良いのだけれど。
「だから社長はダメなんですよ」
と顔をしかめて言われれば、「ごめんなさいね、どうせ私はもうすぐ三十路の世間を知らない引きニートですよ」なんて、ずうんと落ち込む。
美人ちゃんは私の高校時代からの友人で、今でも私のファンを続けていると公言してやまないような、珍しい人である。
私の作るものの一番のファンだから、絶対に第一秘書は譲れない、なんて言われた日には赤面しながらも「よろしくね」なんて言ってしまった。

他は皆男の子の秘書の子達、おそらくは彼女の彼氏候補だか、目の保養のための子なんじゃないかと最近私は疑っている。
だって彼女に秘書を集める時、全て一任したんだ。
だから彼女のために集められたんじゃないかと思うのだ。
そう、まかり間違っても私のためなんかじゃなくってね、美人ちゃんのための秘書君たちなのかなって。
だってだって、私に皆厳しいし、美人ちゃんしか私に話しかけてなんてこないし。
秘書が四人もついてたって、結局美人ちゃんと二人っきりと変わらないのだもの、皆でわいわいしたい私がいじけたって仕方のないことだった。


でもまあ、私は周りに集まってくれる人たちが、皆私の支援をしてくれるから、どんな意図で集められたのかまでは、気にしないことにしている。
美人ちゃんと並んでいるとすさまじい数の視線を感じるから、美人ちゃん目的の入社も多かったんだろうなーとかも思っている。
メディアに露出するときは、毎回秘書もつれていくから、美人ちゃんも必ずカメラに写ることになるのよね。
だから美人ちゃん目的での入社って、絶対にあると思うんだよなー。
ってもまあ、勝手に私がそうと思いこんでいるだけとも言えるのだけど。
まあ……私がモテた試しがないから、おそらくその読みはあってるんだろうな、なんて思うわけです。
悲しいことにな。


まあ、つまりは私の会社ってば、美人ちゃんのハーレムになっちゃっていたりするんだ。
なんだかなー、と思いつつ、私は日々仕事をこなすのです。
寂しいね、うん。
決してそのせいで落ち込んでいるわけではないと言い張る。


落ち込みまくって鬱々としていれば、落ち込んでいる場合じゃないと美人ちゃんが私の肩を揺すりはじめた。
吐くからやめろくださいお願いします。
「すごいの!腰にくる感じなのー!」
「うぅ、そう、なのか。それは良かった……ね?」
何がいいのかとか、よく分からないし、腰にくるってなんだろうと思いながら言えば、ああもうと叫ばれる。
なんかもうごめんね?


確かその男の子の話は、私の耳にもよく入ってくる。
なんでも今年採用になった子で、早くも若手のホープとして名を馳せているんだとか。
へー、スゴいといいながら、先日はコーヒーを啜ってた私。
聞き流していたもんだからよくは覚えていないんだけれど、とりあえず私はその部署ごとの長や秘書たちとしか面通ししないからよく分からない。
若手の子たちと顔を合わせたことなんて、ほぼない――というか、全くなかった。
けれど私自身はマスコミに(最近はだけど)顔出しはよくするので、若手の子達からは私のことはよく知られ、噂はされているとのこと。
なんだか一方通行気味だなあと思いながらも、いっかな忙しいので彼らと交流する場を設けることもなかなか出来ないでいた。
そのホープ君に一度あってみたほうがいいのかしらん?と思いながらもその日は適当に聞き流していたっけと、今更ながら思い出していた。



ちなみに私は本当にせわしない生活を送っているものだから、当然ながら自分の見た目に気を使っている暇がない。
そういったものは全て「趣味ですから」といいはって、私をこまごまと面倒みてくれる秘書の方々にまかせっきりである。
好き勝手いじってくれるので、はっきり言って私の外観は百パー彼らの努力の結晶と言える。
私の趣味や思考が生かされているところなんて欠片もない。
だからパーフェクトにきっちり、格好いい女社長……に、見えていると思います。
たぶん………自信がないけど。
だから、そのお陰で私の元に素晴らしい才能の持ち主がたくさん集まったのだと思うのだ。
男子のくせしてやたらと女子力の高さを見せつける彼らに、感謝しきりな私がいた。
………彼氏候補は全く上がってこないんだけどね!?


結局イケボの意味が、ものすごくいい声をもった男性、くらいのことしか分からないまま、企画書に目を通しながら、どこかすっきりしない気持ちでいたのだ。
とりあえず、「良い声の人がいる」ってことだけ、記憶しておくことにした。


+++


しばらくして、噂のイケボの彼にあう機会が巡ってきた。
新規プロジェクトの立ち上げに関わる彼含め、若手の子たちも加わった会議があるのである。
そういった部署ごとの長たちが会議をとりまとめて、すべて会議録だけ私のところに上ってきていたそれらの――言ってはなんだが――雑多な会議が、まさか私のところにまで巡ってくるだなんて。
本当に珍しいことがあったもんだわとつぶやきを落とすと、美人ちゃんから「はっぱをかけるためよ」と言われた。
「はっぱ」
「そ、はっぱ。ご褒美ちらつかせれば、やる気もでるってもんでしょう?」
「……まあ、そうだね」
なにがご褒美なんだかは分からないけれど、まあそういうことのようです。
適当に頷いていれば、あんたはそのまま変わらないでいてくれれば私は嬉しいと頭を撫でまわされた。
セットされた髪が崩れるからやめてください。






既に全員が着席している会議室に、あとから入室するって言うのが毎回緊張してしまう場面なのだけれども、堂々としていなさいと言われ、心の中で姿勢を正す。
表情は無表情を心がけるようにといわれ、カリスマ女社長を演じる私。
メディアを通してしか彼らは私を知らないわけだから、少しは私という人物像に期待や夢なんてもんもあると思う。
それを崩さないように、壊さないように、私も必死なんだ。
だって「あんなんじゃないと思ってた」って言って、優秀な人材がもしもだが、去って行ってしまったとしたら、私立ち直れない。
それだけでなく、会社が下手したら立ち行かなくなるかもしれない、なんて考えてしまう。
私、根が卑屈なものだから、一人そうして辞めるかもなんて考えると、それにつられてごーっそりいなくなったらどうしよう?!なんて考えてしまう。
だからはっきり言えば若手の子たちと会うのは一種の賭けでもある。
幻滅されないように!なんて願いを託して彼等を一人ひとり顔を見定める様にしてみる。
……うん、今のところ幻滅はされていないっぽい。
ほっとしながら席につくと、なぜか一際強い視線を感じ、そちらに視線を向けてみる。

「なんかすーっごくモテそうな子」

とりあえず私とは一生縁がなさそうな子だとか思いながらその時は一瞥して、直ぐに視線を逸らしてしまった。
だってあまりにも目力が強すぎて、見ていられなかったんだ。


「――それではお手元の資料の三ページをお開き下さい」

マイク片手に喋っているのは、先ほどの矢鱈と目力が強い彼だ。
年齢の頃は二十四、三?もしかしたら若く見えるだけでもう少し行っているのだろうか、などと考える。
顔はまあ整っている。
プレゼン能力も悪くはない。
ついでに言えば声も良い。
ただし、私を見る時の目が、なんだか怖いと思ってしまっている。
それが申し訳なくてまともにプレゼン内容が頭に入ってこないわけなんだけれど、それを見透かしてか美人ちゃんが頭を軽く小突いてくる。

「いちゃいよぅ」
「ちゃんと聞いてないからっしょ!?」

ったく、と言いながら、ぶつぶつと追撃するように小声での注意は止まない。
私が悪いことは分かっているのだけれど、悔しい。
だって美人ちゃんに視線が集まっているのが分かってさぁ……なんだか女として悲しいと思っちゃうじゃないか。
同じ年齢、同じ性別、周囲は男ばっかりなのに、美人ちゃんにしか視線が集まっていないとか。
本当に神様は不公平だと思う。

怒っている彼女が可愛いのは分かるし、ひいき目なしに見ても美人ちゃんは大変美人だ。
けれど隣に座っている私にはアウトオブ眼中とか。
本当に悔しいったらない。
プレゼン内容はパワポと資料を見ているから、一応頭に入ってきてはいる。
ただし話の内容がすっかりと右から左で抜けて行って、頭に入ってこない感じ。
その所為かやたらと美人ちゃんが絡んでくる。
小突くし、美人ちゃんの方に向けて、首をぐきっとやってくるし。
本当になんなんだ、一体。
終いには私の顔を皆から隠す様にするもんだから、なんなんだって言いたい。

痛い苦しいと小さな声で呻けば、美人ちゃんが「やっぱあんた、今日は連れてこなきゃ良かった」と言う。
さいですか、そんなに今日の私は酷い顔をしてるんすか。
あんまりな言いぐさに涙目である。
実際の社長なんてどうせこんなもんさ。
もういいよ、社長室籠ってまた好きなことするもん。
好きなもの作って好きなだけ新しいこと考えるモン。
ふんだふんだ、美人ちゃんったら嫌い。

「社長?あの……」

資料で遮られている視界の向こうから、声がする。
うわっ、なんだこの声。
良く通る声でいて、耳障りな雑音の入らない綺麗な音。
酒焼けなんて絶対にしていないであろう、美しい声に、暫し聞き入ってしまう。
ここで私は、はっとする。
ああそうか、これか。

「美人ちゃんが言ってた、いけぼってこれのこと!?本当だね、凄く綺麗な声!!ねぇ、違う?」

えへへと美人ちゃんに言えばぺしんと顔に掌を張り付けられた。
痛い。

「無防備な笑顔禁止!あと、確かにあってるはあってるけど……なんていうか……」
「あれ?もしかしてちょっとだけ違うの?腰にくるって感じの声を聞いたーって美人ちゃんが自慢してたから、私も聞いて見たかったんだけど……」

顔に張り付いた手をどけながら言えば、美人ちゃんが妙な顔をしていた。
なんだー、これだと思ったんだけど違ったのかー、ショックーと、私がしょんぼりとした声を落とせば、美人ちゃんが今度は「馬鹿!!」と叫ぶ。

「ああ、なんだ、社長はこの声が聞きたかったと?」
「はぇ?」

先ほどまでの雑音の一切入っていない綺麗な音が、色気を含んだそれに変化する。
するとなんでかしらないけれど背筋がぞくぞくとして妙な声が飛び出してしまう。

「良ければ社長にお聞かせしましょうか?もっと……近くで」

にっこりとほほ笑みを浮かべて言われ、良く分からずにあたふたとしていれば、美人ちゃんたちが「今日の会議はこれまで!」と叫ぶ。
流石美人ちゃん、イケメンが微笑んでても動じないんだね。

「社長の目にとまりたければ、位がついてからにしなさいって、入社式の時に言ったでしょう?それが守れないような部下はうちに要らないのよ」
「え?ええ?入社式?あ……そういえば私前半しか出てなかったよね?」
「せめて課長クラスに上がってから声をかけること!わかった?」
「はっぱをかけるつもりが、妙なのにこの子を近づけちゃったじゃない。――さ、あんたは今すぐ社長室に戻って仕事仕事。帰るわよ」
「え?えええ?ちょっとあの、説明して!?」



+++

趣味人でそれで成功する社長。
業種全く考えていないです。
実は社長の仕事ぶりやら見た目やらに惚れて部下になる人が増えるんだけど、社長は美人ちゃん目当てなんだろうなと鬱々。
美人ちゃんもその勘違いに乗ってあげて、周囲を近づけないように画策。
イケボの彼とその後すったもんだあってくっつけばよいと思います。


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